演劇の舞台美術という発想でゲーム空間を作る
■ ゲーム概要
Kentucky Route Zero
- 開発:Cardboard Computer(Jake Elliott、Tamas Kemenczy、Ben Babbitt)
- ジャンル:マジックリアリズム・アドベンチャー
- プレイ時間:8〜12時間
- 特徴:ケンタッキー州の地下を走る”幻の高速道路”を舞台に、パズルもチャレンジもほとんど存在しない、対話と雰囲気で進む全5幕のアドベンチャー
- 開発エンジン:非公開(本記事執筆時点で、開発元Cardboard Computer自身が使用エンジンを明言している一次情報は確認できていません。Kickstarterでの発言としてエンジンのライセンス費用に言及したものは見つかっていますが、具体的な製品名までは特定できていないため、断定は避けています)
■ 購入先・プレイ環境(2026年7月4日時点)
| 販売先 | リンク |
|---|---|
| Steam(PC Edition) | store.steampowered.com/app/231200 |
| Microsoft Store(Xbox / PC、TV Edition) | xbox.com/ja-jp/…/kentucky-route-zero-tv-edition |
Xbox Game Pass:対象外 Xbox公式ストアページでは「Cloud playable with Xbox Game Pass Essential, Premium or Ultimate. Game purchase required.」と表示されており、購入が必要です。日本語ローカライズも含まれています。
■ 公式PV
「KENTUCKY ROUTE ZERO: TV EDITION | Launch Trailer」。Annapurna Interactiveの配信するトレーラーです。
■ 開発者が注目した”一点突破の面白さ”
プレイヤーに多くの手がかりを与えたくない。詩的に、しかし戦略的にではなく向き合ってほしい。
Cardboard Computerの Jake Elliott氏はThe Gameological Societyのインタビューで、テキストのみで進行するシーンについて、選択の効果を明確に示さない設計意図をこう説明している。プレイヤーに「最適な選択肢を探す」のではなく、雰囲気そのものに浸ってほしいという狙いがある。
■ その面白さを開発者視点で分解する
● ① 演劇の舞台美術という発想でゲーム空間を作る
Elliott氏は同インタビューで、開発中にアートディレクションの方向性を模索する中で、演劇の舞台美術(セットデザイン)を参考にゲーム空間を組み立てる発想にたどり着いたと語っている。この発想の転換によって、当初は『メトロイド』のような迷路状の探索アクションを想定していた構想が、境界の明確な”セット”の中で会話が展開する現在の形に変わったという。
● ② Twineコミュニティからの影響
Elliott氏はThe Gameological Societyの取材で、プログラミング経験を必要としないテキストアドベンチャー制作ツール「Twine」のコミュニティに強い影響を受けたと述べている。定型的な”スペースマリーン”的な題材から離れ、性やアイデンティティ、人間関係といった複雑なテーマを扱う作品群に触れたことが、KRZの題材選びにもつながっている。
● ③ 借金という現実の問題を、幻想的な世界観の中に埋め込む
Critical Distanceがまとめた記事の中で、Elliott氏は登場人物たちの生活が略奪的な融資や不可解な金融の仕組みという「現実の、同時代的な世界」に根ざしていることが重要だと語っている。骨董品店の廃業、農場の差し押さえ——幻想的な世界観の裏に、現実の経済的困難がそのまま埋め込まれている。
● ④ ケンタッキー州での取材に基づく世界観構築
The Gameological Societyのインタビューで Elliott氏は、実際にケンタッキー州で過ごした時間の中で、人々の話し方や土地の風景を観察し、共同制作者のTamas Kemenczy氏が撮影した写真を参考資料として活用したと語っている。炭鉱地帯の描写なども、実際の歴史的写真から直接引用したモデルを使用しているという。
■ 設計思想の推測(開発者視点)
検証できる発言から見えてくる Cardboard Computer の設計思想は、次のように整理できる。
- 明快さより詩的な余白を優先する:選択の結果を明示せず、プレイヤーが戦略的にではなく感覚的に向き合えるようにする
- 他分野の発想をゲーム空間設計に転用する:演劇の舞台美術という視点で、探索空間ではなく”セット”としてレベルを組み立てる
- 幻想と現実の問題を同居させる:ファンタジー的な要素の裏に、実在する社会問題を埋め込む
■ 制作に応用できるポイント(構造案)
● ① レベルを”迷路”ではなく”セット”として設計する
探索の自由度を追求するのではなく、演劇の舞台のように「この場面で見せたいもの」を明確に絞り込んだ空間設計は、限られた制作リソースでも密度の高い場面を作るのに向いている。Unity/Godotどちらでも、シーンごとに視覚的な境界を明確にする設計は実装しやすい。
● ② 選択肢の”結果”を明示しない対話設計を試す
会話やナラティブゲームを作る場合、選択肢による分岐を必ずしも明示的なフラグ管理だけで見せる必要はない。結果を曖昧にすることで生まれる余韻も、演出の選択肢として検討する価値がある。
● ③ 取材に基づいた具体的なディテールを積み重ねる
架空の世界観を作る場合でも、実在する場所・時代の取材や資料写真を土台にすることで、説得力のあるディテールが積み上がる。個人開発でも、身近な題材の取材から始める発想は応用できる。
■ まとめ:このゲームは”作り手の教材”である
Kentucky Route Zero は、「演劇の舞台美術」という異分野の発想をゲーム空間設計に持ち込んだことで、迷路型の探索から詩的な”セット”の連なりへと構造を転換させた作品だ。プレイヤーに答えを与えず、幻想と現実の問題を同居させる姿勢は、7年という長い開発期間の中で一貫していた。
■ 参考文献(一次情報)
- Jake Elliott Interview, The Gameological Society
- Jake Elliott / Tamas Kemenczy Interview, funambulism
- 「Kentucky Route Zero」まとめ記事, Critical Distance
- Kentucky Route Zero – Wikipedia(開発経緯について)
■ 著作権表記
© Cardboard Computer / Annapurna Interactive / Kentucky Route Zero
本記事内の開発者コメントは上記一次情報を要約・翻訳したものであり、逐語引用は最小限(15語未満・出典1件につき1箇所まで)に留めています。


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