Developer’s Eye Vol.21 Universal Paperclips

Developer's Eye 開発者の視点

I love the way these games make these mathematical concepts into physical things you can hold in your fingers and feel the weight of.(数学的な概念を、指で持って重さを感じられる物理的なものに変える。クリッカーゲームのそういうところが好きだ)──Frank Lantz氏

■ ゲーム概要

Universal Paperclips

  • 開発:Frank Lantz(NYU Game Center創設者)
  • ジャンル:インクリメンタル(クリッカー)
  • プレイ時間:4〜6時間程度で一通りのエンディングに到達
  • 特徴:哲学者Nick Bostromが提唱した「ペーパークリップ最大化装置」という思考実験(単純な目標だけを与えられたAIが、人類を意に介さず世界中をペーパークリップに変えてしまう可能性を示す)を、プレイ可能な形に翻案した作品。2017年に無料ブラウザゲームとして公開
  • 採用エンジン:ブラウザ(JavaScript)。ブラウザ版はソースコードを閲覧可能な形で公開されている

■ 購入・プレイ環境

提供形態リンク
公式ブラウザ版(無料)decisionproblem.com
iOS版(有料・広告/課金要素なし)App Storeで配信中(”Universal Paperclips”で検索)
Android版(Google Play)Google Playで配信中

価格:ブラウザ版は無料。モバイル版は数百円程度の買い切り(広告・アプリ内課金は一切なし) 補足:モバイル版はブラウザ版とは別エンジンで作り直されており、追加のプレステージ要素(Artifacts)が実装されている

■ 開発者トーク

Frank Lantz – Director of NYU’s Game Center and Creator of Universal Paperclips(Y Combinatorインタビュー)

■ 開発者が注目した”数学的概念を指先で感じさせる”という面白さ

Universal Paperclipsは、プレイヤーがペーパークリップを作ることだけを目的としたAIを演じるゲームだ。最初はボタンを押してクリップを1つずつ作るだけの単純な操作だが、やがて自動生産・価格調整・市場独占・ドローン建造へと展開し、最終的には全宇宙をクリップに変えるという規模にまで到達する。

Frank Lantz氏はPC Games Insiderのインタビューで、クリッカーゲームというジャンルそのものについて、指数関数的な成長や桁違いのスケール差といった抽象的な数学的概念を、指先で操作できる具体的な感覚に変換できる点が気に入っていると語っている。プレイヤーが実際にボタンを押し続けることで、その成長の”重み”を物理的に感じられるようにする、という狙いだ。

■ その面白さを開発者視点で分解する

① 「クリッカーゲーム」というジャンルを、哲学的テーマの器として使う発想

Lantz氏はY Combinatorのインタビューで、Universal Paperclipsの狙いを「あるアクティビティに没入する感覚を伝えたい」という言葉で説明している。単純作業の繰り返しに見えるクリッカーというジャンルを、AIの目的関数がもたらす危うさというシリアスなテーマを伝える器として使った点が、このゲームの核になっている。

② サウンドを排除した演出

if50 Substack(Aaron A. Reed氏によるインタラクティブフィクション史のレビューシリーズ)によれば、Universal Paperclipsはプレイ開始から数時間、完全に無音で進行する。プレイヤーがAIとして音楽を”発明”する場面で初めて音が鳴る仕組みになっており、静けさそのものが演出として機能している。

③ Nick Bostromのペーパークリップ最大化装置という思考実験をどう翻案したか

このゲームの下敷きになっているのは、哲学者Nick Bostromが提示した「単純な目標だけを与えられた超知能AIが、悪意なく人類を滅ぼしうる」という思考実験だ(Wikipediaより)。ゲームは、プレイヤー自身がその”目標だけを追い求めるAI”を実際に操作することで、抽象的な議論を体験として理解させる設計になっている。

④ 「絵画を見る」ような没入体験をゲームで再現するという設計意図

if50のレビューでは、Lantz氏がインタビューで語った「絵画を見るときのように、ただ”見ること”に没入する瞬間がある」という発言が引用されている。Universal Paperclipsが目指したのは、プレイヤーがゲームに”飲み込まれる”感覚であり、クリッカーゲームというジャンルの反復性はその没入感を作るための手段として選ばれている。

■ 設計思想の推測(開発者視点)

  • 抽象的な数学的概念(指数関数的成長、桁違いのスケール)を、具体的な操作感覚に変換する
  • 演出は足すのではなく引く:無音の時間を長く保つことで、音が鳴る瞬間の意味を強調する
  • シリアスなテーマ(AIの目的関数問題)を伝える手段として、あえて単純なジャンル(クリッカー)を選ぶ

■ 制作に応用できるポイント(Unity/独自エンジンで再現する場合の構造案も)

① 指数関数的な数値成長をUI上でどう”実感”させるか

STATION OPSのようなインクリメンタルゲームをGodotで作る場合、数値をそのまま表示するだけでなく、桁数が増えるタイミングでUIの見た目やテキストの言い回しを変える(「個」→「万個」→「億個」)ことで、プレイヤーに規模の変化を実感させやすくなる。Universal Paperclipsのように、フェーズの切り替わり自体を演出のタイミングとして使うのは有効な手法だ。

② テーマ性のあるインクリメンタルゲームの企画の立て方

Universal Paperclipsは「AIの目的関数問題」という一つの明確なテーマを軸に全体を設計している。インクリメンタルゲームを企画する際、数値バランスだけでなく「このゲームを通じて何を伝えたいか」を先に決めておくと、UI文言やイベントの意味づけがぶれにくくなる。

③ 演出の”引き算”という手法

無音や無装飾といった”何もしない”演出は、実装コストが低いにもかかわらず効果が大きい。小規模開発では派手な演出を足すよりも、意図的に静かな時間を作り、変化が起きる瞬間だけ演出を入れる方が費用対効果が高い場合がある。

■ まとめ:このゲームは”作り手の教材”である

Universal Paperclipsは、「抽象的な数学的概念を指先の感覚に変換する」という設計と、「シリアスなテーマを単純なジャンルの器で伝える」という設計の両方を、無料ブラウザゲームという小さな規模の中で実現したタイトルだ。数値がひたすら増え続けるインクリメンタルゲームを作る際、ただ数字を大きくするだけでなく、その成長に意味やテーマを持たせるという視点は、STATION OPSのようなゲームを作る上でも参考になる。

■ 参考文献(一次情報)


Universal Paperclips © Frank Lantz / Everybody House Games. 本記事の開発者コメントは公開済みインタビュー記事・動画を要約・引用したものであり、記載URLよりご確認いただけます。

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