実践ガイド

Developer’s Eye Vol.18 ZERO ESCAPE(極限脱出シリーズ)

密室と制限時間は、プレイヤーに”逃げ場のなさ”を与えるための装置である。

■ ゲーム概要

ZERO ESCAPE(極限脱出)シリーズ

  • 開発:チュンソフト/スパイク・チュンソフト(ディレクション・シナリオ:打越鋼太郎)
  • ジャンル:脱出×推理アドベンチャー
  • プレイ時間:作品や遊び方によって異なる
  • 特徴:密室・制限時間・複数エンディングという極限設定のもと、脱出ゲームパートと推理アドベンチャーパートを組み合わせた3部作。第1作『9時間9人9の扉』(2009年)から第3作『刻のジレンマ』(2016年)まで打越鋼太郎氏が一貫してディレクション・シナリオを担当
  • 採用エンジン:非公開(各プラットフォーム移植は複数の開発会社が担当しており、統一エンジンの情報は確認できなかった)

■ 購入・プレイ環境

販売先リンク
Steam(Zero Escape: The Nonary Games/999+VLR収録)store.steampowered.com
Steam(Zero Escape: Zero Time Dilemma/刻のジレンマ)store.steampowered.com
Xbox Games Store(ZERO ESCAPE 刻のジレンマ)xbox.com

販売価格やXbox Game Passの対象作品・対応プランは変動します。購入や加入の前に各公式ストアの最新情報を確認してください。

■ 公式PV

PS Vita/3DS『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』キャラクタートレーラー

■ 開発者が注目した”密室×分岐”という面白さ

『ZERO ESCAPE』(国内旧題:極限脱出)シリーズは、限られた状況に置かれた複数の人物が、脱出や課題の達成を迫られる設定のアドベンチャーゲームである。ゲームは大きく2つのパートに分かれている。1つは室内をくまなく探索し、アイテムを組み合わせて謎を解く「脱出ゲームパート」。もう1つは登場人物同士の情報共有によって物語が進行する「アドベンチャーパート」だ(Game Watch「アドベンチャー界の旗手 打越鋼太郎氏の作家性にフォーカス」より)。すでにジャンルとして確立している2つの遊び──脱出ゲームと推理アドベンチャー──をあえて組み合わせることで、単体の脱出ゲームでは得にくい”物語の緊張感”と、単体の推理ADVでは得にくい”手を動かして解く達成感”を両立させている。

■ その面白さを開発者視点で分解する

① 探索と物語の役割を整理する

脱出ゲームパートでは仕掛けを解き、アドベンチャーパートでは会話や物語が進むことが多い。ただし探索中にも会話や状況説明があり、それぞれの役割は重なる。複数の遊びを組み合わせる際、それぞれで何を体験させたいか整理すると設計の助けになる。

② 分岐を情報の出し方を制御する手段として捉える

プレイヤーの選択によってルートが分岐し、ステージ構成や物語の展開・結末が変化していく(極限脱出シリーズ – Wikipediaより)という構造は、情報の出し方を制御する手段としても捉えられる。各ルートで情報を集め、全体像に近づく構成と考えられる。

③ シリーズのリニューアルにあたり、あえて仕様を変える判断

シリーズ3作目『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』の開発では、タイトルから「極限脱出」という言葉を意図的に外すなど、リニューアルを意識した判断がいくつも行われている。打越鋼太郎氏は4Gamerのインタビューで、脱出を目的としないステージを新たに加えたことがその理由の一つだと説明している(4Gamer.net「なぜ打越鋼太郎氏は『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』で”運命の理不尽さ”を描いたのか」より)。キャラクターデザイナーの交代なども含め、シリーズものであっても続編ごとに”変える部分”を意図的に選んでいることがわかる。

④ 同ジャンルの他の作り手との対談から見える設計思想

スパイク・チュンソフトは2017年、打越鋼太郎氏と『ダンガンロンパ』シリーズの生みの親である小高和剛氏による対談企画「アドベンチャー裁判」を全3回にわたって公開した。この対談では「なぜデスゲームを題材としたのか」「プレイヤーをのめり込ませるキャラクター作り」「ストーリー分岐とマルチエンディングの是非」といったテーマが扱われている(ファミ通.com「なぜデスゲームを題材に? ストーリー分岐とマルチエンディングの是非は?」より)。両氏はともに、極限状況に置かれた複数キャラクターが謎を解きながら生き残りを図る、という近い構造の作品を手がけている。異なる作家性を持つ2人が同じテーマについてどう考えているかを比較できる点で、単独インタビューにはない視点が得られる企画といえる。

■ 設計思想の推測(開発者視点)

  • 分岐構造は「選択肢の数」ではなく「情報開示のタイミング」を制御するために存在する
  • シリーズを続ける場合でも、前作の仕様をそのまま踏襲せず、あえて変える部分を選ぶ
  • 探索と対話でそれぞれ何を体験させたいか整理し、組み合わせを検討する

■ 制作に応用できるポイント

① 分岐管理を「情報開示テーブル」として設計する

分岐シナリオをUnity・Godot等で実装する場合、単純な選択肢分岐ツリーではなく、「どのルートでどの情報が開示されるか」を管理する一覧(表形式のデータ)を先に作っておくと、伏線の重複や矛盾を防ぎやすい。プレイヤーの選択そのものより、開示される情報の管理が設計の中心になる。

② 探索パートと会話パートをシーン単位で分離する

Godotであれば、探索パート用シーンと会話パート用シーンを別々に用意し、EventBus的な仕組みで両者をつなぐ設計にすると、役割の混同を防ぎやすい。波無島事件のようなミステリーADVでも、この分離は保守性の面で有効だ。

③ 続編・追加コンテンツでは”変える部分”をリスト化する

シリーズものを作る場合、前作から意図的に変更する要素(キャラクターデザイン、タイトルの言葉選びなど)を企画段階でリスト化しておくと、単なる焼き直しにならずに済む。

■ まとめ:このゲームは”作り手の教材”である

『ZERO ESCAPE』シリーズは、探索と対話の組み合わせや、分岐を情報開示の制御手段として捉える視点を得られるシリーズだ。波無島事件のような分岐のあるミステリーADVを作る際、「選択肢を増やす」ことと「伏線を意味のある形で回収する」ことは必ずしも同じ方向を向かない。この設計は、分岐を情報開示のコントロール手段として捉える視点を提供してくれる。

■ 参考文献


ZERO ESCAPE / 極限脱出シリーズ © Spike Chunsoft Co., Ltd. 本記事の開発者コメントは公開済みインタビュー記事・対談企画を要約・引用したものであり、記載URLよりご確認いただけます。

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