密室と制限時間は、プレイヤーに”逃げ場のなさ”を与えるための装置である。
■ ゲーム概要
ZERO ESCAPE(極限脱出)シリーズ
- 開発:打越鋼太郎(スパイク・チュンソフト、旧チュンソフト)
- ジャンル:脱出×推理アドベンチャー
- プレイ時間:1作あたり8〜15時間程度(3部作合計で25〜40時間程度)
- 特徴:密室・制限時間・複数エンディングという極限設定のもと、脱出ゲームパートと推理アドベンチャーパートを組み合わせた3部作。第1作『9時間9人9の扉』(2009年)から第3作『刻のジレンマ』(2016年)まで打越鋼太郎氏が一貫してディレクション・シナリオを担当
- 採用エンジン:非公開(各プラットフォーム移植は複数の開発会社が担当しており、統一エンジンの情報は確認できなかった)
■ 購入・プレイ環境
| 販売先 | リンク |
|---|---|
| Steam(Zero Escape: The Nonary Games/999+VLR収録) | store.steampowered.com |
| Steam(Zero Escape: Zero Time Dilemma/刻のジレンマ) | store.steampowered.com |
| Xbox Games Store(ZERO ESCAPE 刻のジレンマ) | xbox.com |
価格:Steam版 The Nonary Games $29.99/Zero Time Dilemma $19.99(地域により通貨表示が異なる)、Xbox版 刻のジレンマ ¥2,200(2022年配信開始時点) Xbox Game Pass:対象外(購入が必要。Xbox Cloud GamingはGame Pass Essential/Premium/Ultimate加入者向けだが、本体の購入が前提)
■ 公式PV
PS Vita/3DS『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』キャラクタートレーラー
■ 開発者が注目した”密室×分岐”という面白さ
『ZERO ESCAPE』(国内旧題:極限脱出)シリーズは、密室に閉じ込められた複数の人物が、制限時間内に部屋の仕掛けを解いて脱出しなければ全滅する、という設定のアドベンチャーゲームである。ゲームは大きく2つのパートに分かれている。1つは室内をくまなく探索し、アイテムを組み合わせて謎を解く「脱出ゲームパート」。もう1つは登場人物同士の情報共有によって物語が進行する「アドベンチャーパート」だ(Game Watch「アドベンチャー界の旗手 打越鋼太郎氏の作家性にフォーカス」より)。すでにジャンルとして確立している2つの遊び──脱出ゲームと推理アドベンチャー──をあえて組み合わせることで、単体の脱出ゲームでは得にくい”物語の緊張感”と、単体の推理ADVでは得にくい”手を動かして解く達成感”を両立させている。
■ その面白さを開発者視点で分解する
① 探索パートと物語パートの役割を明確に分離する
脱出ゲームパートは「頭を使わせる」役割、アドベンチャーパートは「物語を進める」役割と、2つのパートの機能がはっきり分かれている。初心者が複数ジャンルを掛け合わせる際、それぞれのパートの役割を混同させないことが、この構造を再現する上での前提になる。
② 分岐は選択肢を増やすためではなく、情報の出し方を制御する手段
プレイヤーの選択によってルートが分岐し、ステージ構成や物語の展開・結末が変化していく(極限脱出シリーズ – Wikipediaより)という構造は、単に選択肢を増やすためのものではない。各ルートで得られる情報を少しずつ変え、複数周プレイすることで初めて全体の真相が見える設計になっている。
③ シリーズのリニューアルにあたり、あえて仕様を変える判断
シリーズ3作目『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』の開発では、タイトルから「極限脱出」という言葉を意図的に外すなど、リニューアルを意識した判断がいくつも行われている。打越鋼太郎氏は4Gamerのインタビューで、脱出を目的としないステージを新たに加えたことがその理由の一つだと説明している(4Gamer.net「なぜ打越鋼太郎氏は『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』で”運命の理不尽さ”を描いたのか」より)。キャラクターデザイナーの交代なども含め、シリーズものであっても続編ごとに”変える部分”を意図的に選んでいることがわかる。
④ 同ジャンルの他の作り手との対談から見える設計思想
スパイク・チュンソフトは2017年、打越鋼太郎氏と『ダンガンロンパ』シリーズの生みの親である小高和剛氏による対談企画「アドベンチャー裁判」を全3回にわたって公開した。この対談では「なぜデスゲームを題材としたのか」「プレイヤーをのめり込ませるキャラクター作り」「ストーリー分岐とマルチエンディングの是非」といったテーマが扱われている(ファミ通.com「なぜデスゲームを題材に? ストーリー分岐とマルチエンディングの是非は?」より)。両氏はともに、極限状況に置かれた複数キャラクターが謎を解きながら生き残りを図る、という近い構造の作品を手がけている。異なる作家性を持つ2人が同じテーマについてどう考えているかを比較できる点で、単独インタビューにはない視点が得られる企画といえる。
■ 設計思想の推測(開発者視点)
- 分岐構造は「選択肢の数」ではなく「情報開示のタイミング」を制御するために存在する
- シリーズを続ける場合でも、前作の仕様をそのまま踏襲せず、あえて変える部分を選ぶ
- 探索(頭を使う)と対話(物語を進める)の役割を厳密に分けることで、ジャンルの掛け合わせを破綻させない
■ 制作に応用できるポイント(Unity/独自エンジンで再現する場合の構造案も)
① 分岐管理を「情報開示テーブル」として設計する
分岐シナリオをUnity・Godot等で実装する場合、単純な選択肢分岐ツリーではなく、「どのルートでどの情報が開示されるか」を管理する一覧(表形式のデータ)を先に作っておくと、伏線の重複や矛盾を防ぎやすい。プレイヤーの選択そのものより、開示される情報の管理が設計の中心になる。
② 探索パートと会話パートをシーン単位で分離する
Godotであれば、探索パート用シーンと会話パート用シーンを別々に用意し、EventBus的な仕組みで両者をつなぐ設計にすると、役割の混同を防ぎやすい。波無島事件のようなミステリーADVでも、この分離は保守性の面で有効だ。
③ 続編・追加コンテンツでは”変える部分”をリスト化する
シリーズものを作る場合、前作から意図的に変更する要素(キャラクターデザイン、タイトルの言葉選びなど)を企画段階でリスト化しておくと、単なる焼き直しにならずに済む。
■ まとめ:このゲームは”作り手の教材”である
『ZERO ESCAPE』シリーズは、探索と対話という2つの既存ジャンルを役割分担させて組み合わせる設計と、分岐を情報開示の制御手段として扱う設計の両方を、3作を通じて磨き上げてきたタイトルだ。波無島事件のような分岐のあるミステリーADVを作る際、「選択肢を増やす」ことと「伏線を意味のある形で回収する」ことは必ずしも同じ方向を向かない。この設計は、分岐を情報開示のコントロール手段として捉える視点を提供してくれる。
■ 参考文献(一次情報)
- Game Watch「アドベンチャー界の旗手 打越鋼太郎氏の作家性にフォーカス」
- 4Gamer.net「なぜ打越鋼太郎氏は,『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』で”運命の理不尽さ”を描いたのか」
- ファミ通.com「なぜデスゲームを題材に? ストーリー分岐とマルチエンディングの是非は?『ZERO ESCAPE』打越鋼太郎氏vs『ダンガンロンパ』小高和剛氏”アドベンチャー裁判”開廷」
- Wikipedia「極限脱出シリーズ」
- Steam「Zero Escape: The Nonary Games」
- Xbox「ZERO ESCAPE 刻のジレンマ」
ZERO ESCAPE / 極限脱出シリーズ © Spike Chunsoft Co., Ltd. 本記事の開発者コメントは公開済みインタビュー記事・対談企画を要約・引用したものであり、記載URLよりご確認いただけます。


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