Developer’s Eye Vol.16 Papers, Please

Developer's Eye 開発者の視点

単調な書類チェックに、道徳的ジレンマを埋め込む

■ ゲーム概要

Papers, Please

  • 開発:Lucas Pope(3909)
  • ジャンル:シミュレーション・パズル
  • プレイ時間:4〜8時間
  • 特徴:架空の全体主義国家の入国審査官として、パスポートと書類を照合し続ける単調な作業の中に、家族を養うための生活の切実さと道徳的ジレンマを埋め込んだゲーム
  • 開発エンジン:Haxe/OpenFL(後にUnityへ移行)(2012〜2013年の初期開発はHaxeとOpenFL〔旧HaxeNME〕で行われたが、2023年のバージョン1.4.9でUnityベースのエンジンに刷新。Haxeで書いたコードをC#に変換してUnity上で動かす仕組みを採用している)

■ 購入先・プレイ環境(2026年7月4日時点)

販売先リンク
Steamstore.steampowered.com/app/239030

Xbox版:なし Papers, PleaseはXbox向けにリリースされておらず、Microsoft StoreにもGame Passにも存在しません。対応プラットフォームはWindows/macOS/Linux(Steam)、iOS/Android、PlayStation Vitaです。

■ 公式PV

「Papers Please – Launch Trailer」。

■ 開発者が注目した”一点突破の面白さ”

官僚的な構造は、自然にゲームデザインへと変換できた。

開発者 Lucas Pope氏はGame Developer(旧Gamasutra)のインタビューで、入国審査という官僚的な仕組みそのものが、複雑なルールと規則を積み重ねていくゲームデザインの構造に自然と当てはまったと語っている。国際線の入国審査を何度も経験する中で、その単調な作業に着目したことが出発点だった。

■ その面白さを開発者視点で分解する

● ① 家族の生活費という”生々しい”制約を組み込む

Pope氏は同インタビューで、プレイヤーは1日でできるだけ多くの入国者を処理して生活費を稼ぐ必要があり、その目標は「書類に不備がない人だけを通す」という建前と常に緊張関係にあると説明している。この二つの目標のせめぎ合いが、プレイヤーに継続的な判断を迫る仕組みになっている。

● ② 派手な演出を避けることで生まれる、選択の重み

Pope氏は、もし3Dモデルやボイスオーバー、派手なカットシーンがあれば、これほど多くのニュアンスを維持するのは難しかっただろうと語っている。表現を簡素にした分、個々のエピソードや遭遇イベントが、良い・悪いと単純に判断できない形で解決するよう作り込むことができたという。

● ③ プレイヤーの被害体験を”あえて”作品に反映させない

Pope氏はGame Developerの取材で、自分自身は東南アジアを含め多くの国を旅してきたが、入国審査で嫌な思いをした経験はほとんどないと明かしている。もし実際にひどい扱いを受けていたら、ゲームはもっと違うものになっていただろうとも述べており、この個人的な立ち位置が、審査官という難しい仕事への共感を土台にした作品のトーンにつながっているという。

● ④ 技術基盤を時代に合わせて作り直す判断

Pope氏は自身の開発ログで、2013年当時はHaxe/OpenFLが最適な選択だったが、その後HaxeがFlash指向から離れていく中で、OpenFLの変更に追従する保守コストが増大したと振り返っている。Obra Dinnの開発でUnityに慣れていたこともあり、最終的にHaxeのコードをC#に変換してUnity上で動かす仕組みを自作し、モバイル対応と長期的な保守性を両立させている。

■ 設計思想の推測(開発者視点)

検証できる発言から見えてくる Lucas Pope氏の設計思想は、次のように整理できる。

  • 身近な官僚的作業をゲームの構造に転用する:退屈に見える手続きの中にこそ、ルールを積み重ねるゲームデザインの種がある
  • 表現を簡素にすることで、判断の余地を残す:派手な演出を避けることで、個々の選択が単純な善悪に収まらない余白を作る
  • 技術基盤は必要なら作り直す:長期的な保守性のために、開発言語・エンジンの構成を途中で刷新することもいとわない

■ 制作に応用できるポイント(構造案)

● ① 身近な”手続き”をゲームメカニクスの種として観察する

役所の窓口、空港の保安検査、コンビニのレジ作業など、日常にある単調な手続きには、ルールと例外の積み重ねというゲームデザインの種が眠っていることがある。身の回りの”作業”を観察する習慣は企画の引き出しを増やす。

● ② 制約を”重ねる”ことでジレンマを作る

一つの目標だけでなく、相反する二つ以上の目標(生活費を稼ぐ/規則を守る、など)を同時に課すことで、プレイヤーに継続的な判断を強いる設計は、シミュレーション・アドベンチャー全般に応用できる。

● ③ 技術基盤の刷新を”完成後の選択肢”として持っておく

長く運用するタイトルでは、最初に選んだ言語・エンジンが将来的に保守しづらくなる可能性がある。Papers, Pleaseの事例のように、必要になった段階で基盤を作り直す判断ができるよう、ロジックとプラットフォーム依存部分を分離しておく設計は参考になる。

■ まとめ:このゲームは”作り手の教材”である

Papers, Please は、「官僚的な手続きの単調さ」を、そのままゲームデザインの構造として転用したゲームだ。派手な演出を避け、生活費と規則というせめぎ合いをプレイヤーに継続的に突きつけることで、単純な善悪に収まらない道徳的な重みを作り出している。10年以上運用される中で技術基盤そのものを作り直す判断も含め、長く遊ばれ続けることを見据えた開発姿勢がうかがえる。

■ 参考文献(一次情報)

■ 著作権表記

© Lucas Pope / 3909 / Papers, Please
本記事内の開発者コメントは上記一次情報を要約・翻訳したものであり、逐語引用は最小限(15語未満・出典1件につき1箇所まで)に留めています。

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